【要点解説】令和6年版 労働経済白書(労働経済の分析)| キャリコン学科試験 頻出15テーマ

キャリアコンサルタント学科試験の合格を目指す皆さんに向けて、『令和6年版 労働経済の分析(労働経済白書)』の中で出題可能性が非常に高いテーマをピックアップしその要点を解説します。

令和6年版の白書のメインテーマは「人手不足への対応」です。これに関連する物価、賃金、雇用情勢の最新動向は、相談者のキャリア形成に直結する知識であり、試験で問われる可能性が極めて高い分野です。

ここでは、白書の中から特に重要な15テーマを厳選し、具体的な「出題のポイント」まで踏み込んで解説していきます。

1. 実質賃金の動向と消費への影響

解説

2023年は、給料の額面(名目賃金)は増えましたが、それ以上に物価が上昇したため、実質的な購買力(実質賃金)は2年連続のマイナスとなりました。この実質賃金の目減りが、個人消費が伸び悩む大きな原因だと白書は分析しています。

出題のポイント:
  • 「2023年の実質賃金は前年比でプラスだった」のような単純な正誤問題に注意
  • 実質賃金の計算式(名目賃金 ÷ 消費者物価指数)は基本として押さえる。
  • 実質賃金の減少が相談者の家計やキャリアプランにどう影響するか、という【相談場面】を想定した応用問題。

2. 深刻化する人手不足とその背景

解説

人手不足はコロナ禍前以上に深刻化しています。特に「宿泊業、飲食サービス業」「医療、福祉」は要注意業種です。背景には、単なる需要回復だけでなく、経済のサービス化や働き方改革による労働時間短縮といった複数の要因が絡んでいる、と理解しておきましょう。

出題のポイント
  • 人手不足が顕著な業種を具体的に問う知識問題
  • 需要増、サービス化、人口構造の変化といった背景を関連付けて理解できているか。
  • 「人手不足関連倒産」が過去最多である、という時事知識

3. 「持続的かつ構造的な賃上げ」の実現に向けた課題

解説

2023年春季労使交渉では30年ぶりの高い賃上げ率(3.60%)が実現しましたが、これを一過性で終わらせない「持続性」が重要です。そのための課題として、中小企業の「価格転嫁」と、付加価値を高める「労働生産性の向上」が挙げられています。

出題のポイント
  • 賃上げの決定要因(企業業績、物価、労使交渉など)の理解度を測る問題。
  • 「価格転嫁」「労働生産性」というキーワードと賃上げの関係性を問う問題。
  • 賃上げがキャリア展望に与える影響について、相談者と対話する際の視点を問う問題。

4. 女性の就業促進と課題(M字カーブの解消とL字カーブ)

解説

女性の就業率は向上し、出産・育児期の離職が減ったことで「M字カーブ」は解消傾向にあります。しかし、再就職時に非正規雇用に就くことで賃金が上がりにくい「L字カーブ」が新たな課題として浮上しています。この2つはセットで覚えましょう。

出題のポイント
  • M字カーブとL字カーブの形状や意味を問うグラフ問題
  • 女性の正規雇用比率や育休後就業継続率の推移に関するデータ問題
  • キャリアを継続・再開したい女性への支援(両立支援制度、キャリアプラン再設計など)のあり方を問う問題。

5. 高齢者の就業意欲と活躍推進

解説

健康寿命が延び、働く意欲のある高齢者が増えています。企業には、「高年齢者雇用安定法」に基づき、定年延長や継続雇用などで70歳までの就業機会を確保する努力義務が課せられています。

出題のポイント:
  • 高齢者の就業率や就業希望者の割合に関する統計データ
  • 高年齢者雇用安定法が定める「70歳までの就業機会確保(努力義務)」に関する知識問題。
  • セカンドキャリアを考える高齢者への支援(経験の棚卸し、学び直し、多様な働き方の提案など)の視点。

6. 非正規雇用労働者の動向と課題

解説

非正規雇用労働者は全労働者の約4割を占め、特に女性や高齢者に多い傾向があります。「自分の都合のよい時間に働きたい」という自発的理由が最多ですが、不本意非正規も存在します。**「同一労働同一賃金」**の徹底が引き続き課題です。

出題のポイント:

  • 非正規雇用労働者の数や属性に関する統計データ
  • 非正規雇用を選択する理由(最多は「自分の都合のよい時間」)を問う問題。
  • 「パートタイム・有期雇用労働法」における均等・均衡待遇や、キャリアアップ支援義務に関する問題。

7. 活発化する転職市場と労働移動

解説

より良い条件を求め、自発的に離職・転職する動きが活発になっています。政府も、産業構造の変化に対応するため、成長分野への円滑な労働移動を「人への投資」の一環として後押ししています。

出題のポイント
  • 転職者数の推移や転職理由(「より良い条件の仕事」など)を問う問題。
  • 労働移動を促す政策(リスキリング支援、自己都合離職者の失業給付見直しなど)の知識。
  • 転職希望者への支援で重視すべき点(自己理解、労働市場の情報提供、意思決定支援など)。

8. 人への投資としての「リスキリング」

解説

DX(デジタルトランスフォーメーション)などの産業構造変化に対応するため、新しいスキルを習得する**「リスキリング」**の重要性が高まっています。企業主導だけでなく、労働者自身の主体的な学びが求められる点がポイントです。

出題のポイント
  • リスキリングの定義や、OJT/OFF-JTとの違いを問う問題。
  • 政府の支援策(教育訓練給付制度、人材開発支援助成金など)に関する知識。
  • 個人のリスキリングを支援する際のキャリコンの役割(動機付け、情報提供、キャリアプランとの接続)。

9. 働きがいと労働生産性の関係

解説

白書では、賃金だけでなく、仕事の裁量権や良好な人間関係といった「働きがい(従業員エンゲージメント)」が、労働生産性や定着率にプラスの影響を与えると分析しています。

出題のポイント
  • 働きがいの概念と、企業業績への影響を問う問題。
  • 働きがい向上の施策例(1on1ミーティング、柔軟な働き方など)に関する知識。
  • 働きがいが低下している相談者へのアプローチ方法を問う【相談場面】を想定した問題。

10. 外国人材の受け入れと共生

解説

人手不足対策として外国人労働者は増加しており、特に「特定技能」制度の活用が拡大しています。一方で、日本の賃金が伸び悩む中、海外との人材獲得競争が激化しているという課題も指摘されています。

出題のポイント
  • 在留資格別(技能実習、特定技能など)の外国人労働者数の動向を問う問題。
  • 外国人材が働きやすい環境整備(言語サポート、文化理解など)の重要性に関する問題。
  • 外国人相談者への支援における留意点(在留資格の理解、日本の労働慣行の説明など)。

11. 長時間労働の是正と働き方改革

解説

働き方改革により総労働時間は減少傾向ですが、一部業種では長時間労働が根強く残っています。特に2024年4月から建設業・運送業などへ時間外労働の上限規制が適用された点は、最重要の時事トピックです。

出題のポイント
  • 36協定や時間外労働の上限規制といった労働時間法制の基本知識。
  • 週労働時間60時間以上の雇用者の割合の推移に関するデータ問題。
  • 長時間労働に悩む相談者への対応(健康への配慮、相談窓口や労働法規の情報提供など)。

12. 副業・兼業の動向

解説

政府は働き方の多様化の一環として副業・兼業を促進しています。収入増だけでなく、スキルアップやキャリア形成の観点からも注目されますが、労働時間の通算管理や健康確保が課題となります。

出題のポイント:

  • モデル就業規則が「原則容認」**に改定された点の理解。
  • 副業・兼業を行う労働者の割合や目的を問う問題。
  • 希望者への支援(本業との両立、法的留意点のアドバイスなど)のあり方。

13. 最低賃金の引き上げとその影響

解説

近年、最低賃金は大幅に引き上げられ、全国加重平均で1000円の大台を超えました。低賃金労働者のセーフティネットとして機能する一方、企業の支払い能力への配慮も議論されています。

出題のポイント
  • 最低賃金の決定方式(中央審議会の目安を参考に各都道府県で決定)の理解。
  • 近年の引き上げ額や全国加重平均額の推移に関する時事問題
  • 最低賃金上昇が企業の求人戦略や個人の仕事選びに与える影響についての考察。

14. 障害者雇用の進展

解説

民間企業の障害者実雇用率は年々上昇し、過去最高を更新中です。2024年4月から法定雇用率が2.5%に引き上げられ、企業のさらなる取り組みが求められています。(※2026年7月には2.7%に再引き上げ予定)

出題のポイント
  • 障害者雇用率制度の概要と、法定雇用率の具体的な数値(2.5%)を問う問題。
  • 雇用されている障害者数の推移や、障害種別(身体・知的・精神)の内訳に関するデータ。
  • 「合理的配慮」の考え方や、採用後の「定着支援」の重要性に関する問題。

15. 「人件費高騰」による倒産の増加

解説

賃上げや社会保険料負担増といった人件費の上昇に耐えきれず倒産する企業が増えています。これは、企業の支払い能力が限界に近づいているシグナルであり、雇用の不安定化につながる可能性があります。

出題のポイント
  • 倒産動向の中で「人手不足関連倒産」や「人件費高騰倒産」が増加している時事知識。
  • この現象が労働市場に与える影響と、キャリアコンサルタントとしての関わり方(転職支援、リスクへの備え)を問う問題。

厚生労働省が毎年公表する「労働経済の分析」は、その年の日本の労働経済の現状と課題を示す重要な報告書です。最新の令和6年版と前年の令和5年版を比較することで、この1年間で日本の労働市場にどのような変化があったのか、そして今後の展望が見えてきます。本稿では、両年版の分析を比較し、その主なポイントをまとめます。 

1. 経済・雇用情勢の評価

  • 令和5年版: 新型コロナウイルス感染症の影響からの回復途上であり、雇用情勢は緩やかな改善傾向にあるとされました。ただし、業種や雇用形態によって回復の度合いにばらつきが見られること、物価上昇による実質賃金の低下などが懸念点として指摘されました。
  • 令和6年版: 経済活動の正常化が進む中で、雇用情勢は着実に改善していると評価されています。有効求人倍率は上昇し、完全失業率は低下傾向にあります。一方で、依然として中小企業や非正規雇用労働者の状況には注視が必要であるとされています。また、構造的な課題である人手不足がより深刻化している現状が強調されています。

2. 賃金動向

  • 令和5年版: 名目賃金は緩やかに上昇しているものの、消費者物価の上昇に追いつかず、実質賃金はマイナスとなっている状況が分析されました。賃上げの動きは一部大企業にとどまり、中小企業への波及の遅れも課題として指摘されました。
  • 令和6年版: 物価高騰に対応するための賃上げの動きが広がりを見せ、名目賃金の上昇率は前年を上回っています。しかし、実質賃金の動向は依然として注視が必要とされています。企業規模や業種間での賃金格差、非正規雇用労働者の賃金の低さといった課題も引き続き指摘されています。

3. 労働時間・働き方

  • 令和5年版: 働き方改革関連法の施行による時間外労働の削減や年次有給休暇の取得促進などの効果が見られる一方で、依然として長時間労働が存在する企業や、多様な働き方の実現に向けた課題が指摘されました。テレワークの定着や副業・兼業の広がりも見られました。
  • 令和6年版: 労働時間の短縮傾向は継続しているものの、人手不足を背景に一部で長時間労働が再び増加する懸念が示されています。柔軟な働き方としてのテレワークは定着しつつありますが、その一方でコミュニケーションや評価に関する課題も浮き彫りになっています。多様な働き方を推進するための環境整備の重要性が改めて強調されています。

4. 人材開発・能力開発

  • 令和5年版: デジタル化やグリーン化といった経済社会の変化に対応した人材育成の重要性が指摘されました。企業におけるOJTやOff-JTの実施状況、リカレント教育の推進などが分析されました。
  • 令和6年版: 人手不足が深刻化する中で、労働者のスキルアップやキャリアチェンジを支援する重要性がより一層強調されています。企業における人材育成投資の促進、個人の主体的な学びの支援、効果的なマッチングの推進などが課題として挙げられています。

5. 労働市場の構造的課題

  • 両年版共通: 少子高齢化による労働力人口の減少、非正規雇用労働者の処遇改善、男女間賃金格差の解消、地域間の労働移動の促進などが、引き続き重要な構造的課題として指摘されています。令和6年版では、これらの課題に加えて、人手不足の深刻化がより明確に示されています。

まとめ

令和6年版「労働経済の分析」と令和5年版を比較すると、新型コロナウイルス感染症の影響からの回復が進む中で、雇用情勢は改善傾向にあるものの、人手不足の深刻化という新たな課題が浮き彫りになっています。賃上げの動きは広がっているものの、実質賃金の動向や企業規模間・雇用形態間の格差是正は依然として重要な課題です。働き方改革は進展しているものの、人手不足による長時間労働の懸念や、多様な働き方の定着に向けた課題も存在します。 

今後の労働経済においては、人手不足への対応、持続的な賃上げの実現、多様で柔軟な働き方の推進、そして変化する経済社会に対応した人材育成がより一層重要になると言えるでしょう。厚生労働省の今後の政策動向とともに、労働市場の変化を注視していく必要があります。


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