キャリアコンサルタント学科試験の合格を目指す皆さんに向けて、『令和7年版 労働経済の分析(労働経済白書)』の中で出題可能性が非常に高いテーマをピックアップしその要点を解説します。
今年のメインテーマは「労働力供給制約の下での持続的な経済成長に向けて」です。
平たく言えば、「これからどんどん働き手が減っていく日本で、どうやって経済を成長させ続けていくか?」という、まさにキャリア支援の現場にも直結する重いテーマです。
この白書の中から、特に試験で狙われそうな15のポイントを、出題の意図も踏まえて分かりやすく解説していきます。
No.1 実質賃金動向と一般・パート別賃金のマイナス脱却
まず押さえたいのが「実質賃金」の話です。
2024年、給与の額面(現金給与総額)は4年連続で増えました。これは良いニュースに見えますが、ご存知の通り物価高が厳しく、全体でみると「実質賃金」は3年連続のマイナス。私たちの「生活が苦しい」という感覚は、この数字に表れています。
【出題のポイント】
ここで試験のヤマになるのが、「一般労働者」と「パート」それぞれ個別に見ると、実質賃金は3年ぶりにマイナスから脱した(=プラスになった)という事実です。
「全体だとマイナスなのに、内訳を見るとプラス」という、この「ねじれ」現象がなぜ起きているのかが問われます。これは、賃金上昇率が比較的高いパートタイム労働者の割合が増加したことなどが影響しており、統計のマジックとも言えます。試験では、この事実の違いを正確に覚えているかが試されます。さらに、この実質賃金の動向が、相談者の家計やキャリアプランにどう影響するか(例:額面は増えても生活実感として豊かになっていない現実を踏まえた支援)といった、キャリアコンサルタントとしての応用力が問われるでしょう。
No.2 人手不足の深刻化と非製造業における過去最高水準の不足感
次は「人手不足」です。
実は、労働力人口や就業者数自体は2024年も過去最高を更新しています。それなのに、企業側は「人が足りない!」と悲鳴を上げている状況です。
【出題のポイント】
特に深刻なのが「非製造業」(医療、福祉、運輸、建設、サービス業など)で、なんとバブル期を超える過去一番の不足感となっています。これは、過去の景気回復局面の経験則が通用しないほど深刻な事態であることを意味します。また、企業規模別では中小企業が特に厳しい状況なのも相変わらずです。
試験では、「非製造業が過去最高水準である」という具体的な事実と、中小企業の厳しい状況を正確に把握しているかが問われます。この人手不足が、経済活動の足かせ(例:サービス提供の制限、倒産)になっているという現状認識も重要です。
No.3 2024年春季労使交渉の高水準な賃上げと2025年の要求動向
人手不足も背景に、賃上げの動きが活発です。
2024年の春闘(春季労使交渉)は、今の調査方法になった1999年以降で改定額・改定率ともに過去最高を記録。これは「33年ぶりの高水準」という、非常にインパクトのある出来事でした。この力強い動きが、中小企業にも広がっている点が重要です。
【出題のポイント】
「33年ぶりの高水準」という事実は、日本の長らく続いたデフレマインドからの転換点になるかもしれない、という文脈で必ず覚えてください。
さらに時事ネタとして、連合が2025年の春闘方針として、物価高騰を確実にカバーし実質賃金をプラスに転じさせるため、「賃上げ分3%以上、定昇相当分を含め5%以上」という高い要求目安を掲げている点も、最新動向として押さえておきましょう。賃上げが日本経済全体の課題となっていることが問われます。
No.4 労働力供給制約の将来予測と労働生産性向上の最重要性
日本の将来に目を向けたテーマです。
ご存知の通り、生産年齢人口は今後どんどん減っていきます。ある推計では、もし経済成長や労働参加がこのまま進まないと、2040年の就業者は2022年比で約1,000万人も減ってしまうとされています。
【出題のポイント】
この「労働力供給制約」という、働き手の絶対数が減っていく状況下で、持続的に経済成長するための答えは何か? 白書は「実質労働生産性の向上」が最も重要だと結論付けています。なぜなら、労働参加率の向上(例:女性や高齢者の活用)にも限界があるため、最終的には「一人ひとりが生み出す価値(生産性)」を高めるしかないからです。試験では、この最重要課題が「労働生産性の向上」であるという認識がストレートに問われます。これは、個人のリスキリングやアップスキリング支援という、キャリコンの役割がますます重要になることを示唆しています。
No.5 労働生産性向上のための無形資産投資(ソフトウェア・AI等)の促進
では、どうやって労働生産性を上げるのか。そのカギが「無形資産投資」です。
無形資産とは、R&D(研究開発)やソフトウェア、そして「人的資本(教育訓練など)」といった目に見えない資産のことです。
日本は、この無形資産投資、特にソフトウェア投資の伸びが欧米と比べて低い水準にとどまっています。
【出題のポイント】
「無形資産投資」という言葉の定義、特に「人的資本」が含まれることを正確に理解しておく必要があります。これはキャリアコンサルタントの業務(教育訓練や能力開発支援)と直結する概念です。
試験では、日本の無形資産投資が国際比較で低い水準にあること、そして、特に人手不足が深刻な「非製造業」においてソフトウェア投資(業務効率化など)が遅れていることが、生産性向上のボトルネックになっている、という因果関係を理解しているかが問われます。
No.6 AI/DX活用と職種別の期待・不安
生産性向上の切り札として期待されるAI/DXですが、働く人の受け止め方は複雑です。
「IT関係」「営業」「事務」「管理職」などでは、「面倒な作業から解放される」「パフォーマンスが上がる」といった期待が大きいです。
一方、「労務作業」「事務(定型的な)」「介護」といった仕事では、「職場で取り残されるのではないか」という不安が相対的に高いことが分かりました。
【出題のポイント】
AI/DXへの「期待」と「不安」が、職種によって傾向が異なる、という点が重要です。この二極化は、社内でのデジタルデバイド(格差)や、変革への抵抗を生む可能性があります。キャリアコンサルタントとして、特に不安を抱えやすい職種(労務作業、事務、介護)を具体的に把握しているか、そして、そうした人々にどう寄り添い、AIリテラシー教育や、AIには代替できない対人スキル等の価値を再認識してもらうか、といった支援の視点が問われます。
No.7 社会インフラ関連職の深刻な人手不足と欠員率の高止まり
今年の白書で大きく特集されているのが、この「社会インフラ関連職」です。
これは、医療・保健・福祉、保安・運輸・建設、接客・販売・調理など、私たちの生活に欠かせない仕事群を指します。
高齢化などでニーズは爆発的に増えているのに、働く人が全然足りていません。欠員率(ポストの空き具合)は約5%で高止まりしています。
【出題のポイント】
この「社会インフラ関連職」の定義(3つのグループ)と、その深刻な人手不足の現状は必出です。特に「医療・保健・福祉グループ」の欠員率が約6%と最も深刻であること、その背景には高齢化による需要急増と業務の過酷さがあることを理解しましょう。さらに深刻なのは、この分野を希望する「なり手」自体(求職者数)が、非社会インフラ関連職の約4割にとどまっている点です。この強烈な需給ギャップが、人手不足を一層悪化させている構造が問われます。
No.8 社会インフラ関連職の処遇と「キャリアラダー」の構築
では、なぜ社会インフラ関連職に人が集まらないのか。
大きな理由の一つが「処遇」です。データでは、他の仕事(非社会インフラ関連職)と比べて、年間所得が約104.5万円も低いという厳しい実態が示されました。
さらに、長く働いても給料が上がりにくい(賃金カーブがフラット)という傾向もあります。
【出題のポイント】
この処遇問題を解決するキーワードが「キャリアラダー」の構築です。年間100万円以上の所得差に加え、将来の昇給が見えにくい(賃金カーブがフラット)ことは、働く人にとって「長く働いても報われない」という絶望感につながり、離職の大きな原因となります。そこで、建設業におけるCCUS(建設キャリアアップシステム)のように、スキルや経験を可視化し、それに応じて処遇(賃金)が段階的に上がっていく「はしご(ラダー)」を作ることが重要だとされています。この「キャリアラダー」という用語と、その目的(スキルと処遇の連動)をセットで押さえましょう。
No.9 社会インフラ関連職の仕事の特性と労働環境の課題
問題はお金だけではありません。労働環境も課題です。
社会インフラ関連職は、他の仕事に比べ、「立ち作業」「病気、感染症のリスク」「他者の健康・安全への責任」といった、身体的・健康的な負担が重い傾向があります。また、月間労働時間も約2時間長いというデータもあります。
【出題のポイント】
賃金水準の低さに加え、こうしたエッセンシャルワーカー特有の業務負担(身体的・健康的リスク、精神的重圧)が、人材確保を一層難しくしている、という多面的な課題構造を理解することが重要です。試験では、賃金(金銭的報酬)だけでなく、こうした労働環境や仕事の負担(非金銭的側面)も、人材の定着に大きく影響する要因である、という視点が問われます。
No.10 労働時間上限規制の完全適用と長時間労働是正の動向
働き方改革の進展で、全体の労働時間は減少傾向にあります。
そして、2024年4月から、これまで「適用除外」だった建設業、運輸業(ドライバー)、医師などへも、ついに時間外労働の上限規制が適用されました。
【出題のポイント】
この「2024年4月からの上限規制適用(建設業、運輸業、医師)」は、最重要の時事トピックです。これらの業種が、いかに日本の社会インフラを支える一方で、過酷な長時間労働に依存してきたかを示しています。これが「2024年問題」の核心であり、試験ではこの法改正の事実と対象業種がストレートに問われる可能性が極めて高いです。また、この規制により労働時間の改善が期待される一方、短期的には労働力不足をさらに深刻化させる懸念もあり、業務効率化やDXが待ったなしであるという文脈も理解しておきましょう。
No.11 労働者の意識変化:仕事優先から「仕事・余暇両立型」へのシフト
働く人の「意識」も大きく変わってきています。
1973年頃は「仕事優先型」の人が約44%もいましたが、近年では約23%まで激減。代わりに「余暇・仕事両立型」(約38%)と「余暇・優先型」(約36%)が多数派になっています。
【出題のポイント】
この「ワーク・ライフ・バランス重視」へのシフトは、もはや一時的な流行ではなく、経済の成熟化や価値観の多様化に伴う、不可逆的な社会の大きな流れであると理解することが重要です。試験では、この長期的な傾向をデータ(例:「仕事優先型」の割合が低下し、「両立型」「余暇優先型」が逆転・増加)で問われる可能性があります。企業側が、こうした意識変化に対応した柔軟な雇用管理(例:時短勤務、テレワーク、多様なキャリアパス)を導入しなければ、人材を確保・定着させることが難しい時代になった、という点を押さえましょう。
No.12 若年層(20代・30代)の働く意識:賃金重視と転職志向
特に若い世代(20代・30代)の意識変化は顕著です。
彼らは他の世代と比べ、「仕事内容よりも賃金水準にこだわりたい」とはっきり考えている傾向が強いことが分かりました。処遇面への関心が非常に高いのです。
同時に、「転職を通じたキャリア形成が望ましい」と考える割合も、若い層ほど高くなっています。
【出題のポイント】
若年層の「賃金重視」の背景には、社会保険料の負担増や将来不安など、シビアな現実認識があると考えられます。また、「転職に肯定的」である点は、一つの会社に尽くすというより、自らの市場価値を高めてキャリアを築いていくという意識(ジョブ型雇用への親和性)の表れとも言えます。試験では、企業が従来の年功序列や終身雇用といった前提では、こうした価値観を持つ若年層の獲得・定着が難しくなっている、という現状認識が問われます。これは面接試験での応答にも活かせる視点です。
No.13 転職市場の活発化と日本的雇用慣行の変化
若者に限らず、転職市場全体が活発化しています。
正規雇用労働者の転職者数は、2013年~2024年にかけて37万人も増加しました。理由は「労働条件や賃金」「仕事内容への不満」が相変わらず多いです。
こうした動きと並行して、年功的な賃金カーブはフラット化(傾きが緩やか)し、新卒からずっと同じ会社にいる「生え抜き社員」の割合も低下傾向にあります。
【出題のポイント】
転職者数の増加(人手不足による売り手市場化や転職サービスの普及も背景にある)、賃金カーブのフラット化、そして「生え抜き社員」割合の低下。これら複数の事象が、すべて「日本的雇用慣行(終身雇用・年功序列)が変化している」ことを示す証拠として重要です。試験では、これらの個別の事実を問うだけでなく、これらが組み合わさって雇用システム全体の変容を示している、という大きな文脈を理解しているかが試されます。
No.14 継続就業を促す雇用管理策:処遇改善と「働きやすさ」
人手不足の中、企業はいかに社員に辞めずに続けてもらうか(リテンション)が死活問題です。
白書の分析によると、「若手以外の賃金の引上げ(ベア)」および「若手の賃金の引上げ(ベア)」が、労働者の継続就業希望(辞めたくないという気持ち)を高める上で、最も効果的であることが確認されました。
【出題のポイント】
ここで重要なのは、若手だけでなく「若手以外」へのベースアップも同様に効果がある、と示された点です。つまり、全世代的な処遇改善がリテンションに効くという、ある意味で当然、しかしデータで裏付けられた事実は重要です。
また、働きにくい要因のトップが「慢性的な人手不足」であることも注目です。これは、人手不足が労働環境を悪化させ、それが離職を呼び、さらに人手不足になる…という悪循環を示唆しています。「働きやすさ」と「継続就業希望」には強い相関があり(働きやすいグループの継続就業希望は約88%)、処遇改善と労働環境改善が車の両輪であることが問われます。
No.15 多様な働き方の普及とテレワークの格差
最後に、柔軟な働き方です。
短時間正社員など「多様な正社員制度」の導入は進んでいます。
しかし「テレワーク」については、大きな格差が生まれています。非社会インフラ関連職(デスクワーク中心)では約20%が活用しているのに対し、現場仕事の多い社会インフラ関連職では5%未満と、ほとんど普及していません。
【出題のポイント】
テレワークの普及状況について、職種間(特に社会インフラ関連職と非社会インフラ関連職)や事業所規模によって大きな格差が生じている、という現状認識が問われます。この格差は、単なる働き方の違いに留まらず、採用競争力や従業員満足度の格差、ひいては人材確保の格差にもつながる問題です。社会インフラ関連職のような現場仕事ではテレワークは難しくとも、例えばシフトの柔軟化や短時間正社員制度の導入など、別の形での「柔軟な働き方」の推進が人材確保の鍵になる、という視点も重要です。
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