図解:対話の質を向上させる「伝え返し」の技法

図解:対話の質を向上させる「伝え返し」の技法

「オウム返し」から、心を照らす対話へ

図解で学ぶ「伝え返し」の技法

面談での「言い換え」、どんな風に意識していますか? 相談者の言葉をそのまま繰り返す、いわゆる「オウム返し」。もちろん、これも「あなたの話を聴いていますよ」という大切なサインになります。

しかし、経験を重ねるうちに「ただ繰り返すだけでは、話が深まっていかない…」と感じることが増えるかもしれません。そんな時、もう一歩踏み込んだ「伝え返し(リフレクション)」のスキルが、驚くような力を発揮してくれます。


理論編:「伝え返し」とは何か?

「伝え返し」とは、相談者の発言内容や、その背景にある感情・意図を、聴き手が自身の言葉で再構成して相手に伝えるカウンセリングの基盤的技法です。これは「あなたの発言を、私はこのように理解しましたが、いかがでしょうか」という確認作業であり、相談者の内省を促す機能を持っています。

「伝え返し」の構造

伝え返し (リフレクション)

感情の反映

(Feeling)

言い換え

(Paraphrasing)

要約

(Summarizing)

3つの要素、それぞれの役割

1. 感情の反映 (Reflection of Feeling)

言葉そのものではなく、声のトーンや表情、話の文脈から感じ取れる相談者の「気持ち」を言葉にして返します。「言葉になっていない心の声」に焦点を当てる技法です。

対話例

相談者: 「あれだけ時間をかけて準備した企画書なのに、上司はチラッと見て『ああ、わかった』とだけ…。」(少しうつむきながら)

聴き手: 「一生懸命準備されただけに、その対応にはがっかりされたのですね。」

効果: 自分の気持ちを理解してもらえたという深いレベルでの共感に繋がり、安心感や信頼関係を強めます。相談者自身も「ああ、自分はがっかりしていたんだな」と感情を自覚するきっかけになります。

2. 言い換え (Paraphrasing)

相談者が話した内容の「事実」や「出来事」を、聴き手がより短く、客観的な言葉で整理して返します。話の「意味」を捉え直す作業です。

対話例

相談者: 「プレゼンの準備もしなきゃいけないし、週報もまとめないと。それに他部署からのメールも溜まってて、何から手をつけていいか…。」

聴き手:複数の重要なタスクが同時に発生していて、優先順位をどうつけるか悩んでいらっしゃる状況なのですね。」

効果: 相談者は自分の状況を客観的に見つめ直すことができ、思考の整理が進みます。また、聴き手にとっても「このように理解しましたが、合っていますか?」という認識の確認になります。

3. 要約 (Summarizing)

話が長くなった時や、複数の話題が出た時に、それらの要点をまとめて短く返します。点と点だった話を線で結び、全体像を明確にするイメージです。

対話例

(上司との関係、同僚との連携、仕事内容への疑問について一通り話した後で)

聴き手: 「これまでの話をまとめると、上司とのコミュニケーション同僚との連携、そして現在の仕事の進め方という3つの点で難しさを感じていらっしゃる、ということでしょうか。」

効果: 複雑な話を整理し、対話の方向性を見失わないようにします。相談者にとっても、自分が話してきたことの全体像を把握し、次にどこを深掘りしたいかを考える手助けになります。


実践編:「要約的言い換え」の力

例えば、相談者が「上司は評価してくれないし、後輩は言うこと聞かないし、もうどうしたらいいか分からなくて…」と、少し混乱した様子で話してくれたとします。

ここで大切なのが、単に言葉を繰り返すのではなく、その気持ちの核心をそっと掬い取って、次のように返してみることです。

「つまり、頑張りがなかなか報われない職場の状況に、少し疲れを感じていらっしゃるんですね」

この応答は、複数の要素を巧みに統合したものです。以下の図は、その思考プロセスを示しています。

「要約的言い換え」の思考プロセス

相談者の発言 (複数の問題)

要約
+
感情の反映

洗練された応答

心がほどける瞬間に立ち会う

このような応答を受け取った相談者には、大きな変化が見られます。「あ、この人、私のこのぐちゃぐちゃな気持ちを、ちゃんと理解してくれたんだ…!」という、心がほどけるような安心感。これが、信頼関係の温かい土台になります。

同時に、要約された言葉を聞くことで、「そうか、私はそう感じていたんだ」と自身の思考がスッキリ整理されていく手助けにもなります。


実践してみよう!

実際に「要約的言い換え」を体験できる学習アプリをご用意しました。ぜひ、このスキルをあなたのものにしてください。

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結論:伴走するための大切なスキル

この「要約的言い換え」は、小手先のテクニックではありません。相談者の心を照らし、一緒に伴走するための本当に大切なスキルです。

次回の面談から、ほんの少しだけ意識してみてください。きっと、相談者の表情や言葉に、新しい変化が見えるはずです。

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